大学からの創薬の必要性

バイドール法(日本版)施行により、知的財産権(知財)の大学への帰属と独自の運用が可能となり、知財出願数も大幅に増加した。これまで日本の大学から出願されるバイオ関連知財は、「遺伝子」・「蛋白」・「動物モデル」などの基礎的成果が殆どを占めていた。ただ、そこから応用・開発研究を推し進め、実際にヒト臨床試験(例えば「創薬」)にまで到達するためのハードルが如何に高いか、技術移転の困難さが徐々に明らかになってきた。

 

多くの基礎研究成果(知財)は、開発段階が早期であるために製薬企業等からの支援を得られていない。自分たちの生み出した成果を確実に臨床に繋げるためには(実用化)、自らの努力により開発段階を進める必要がある。見出した遺伝子・蛋白から予測される治療コンセプトを提唱するだけではなく、それを証明するためのツール(新規化合物など)を取得し、これらを用いて治療コンセプトをヒトで証明(Proof of concept、 POCの取得)する必要がある。産学連携に取り組んでみて、「POCの取得できた新規化合物(知財取得済)」こそが、大手製薬企業が安心して技術移転を受けることが出来る対象である事実を学んだ。しかし、大学研究者としてこのハードルは極めて高い。「有用な新規化合物」など知財内容の充溢は、今後大学がバイオ関連知財の実用化を目標とする場合、考慮しなければいけない課題と考える。

医薬品とは、自動車やパソコン等の研究開発と本質的に違い、全ての情報が1つの化合物(クスリ)の中に詰っている。逆に言えば、この有用な新規化合物の取得とヒト臨床試験での実証が実用化の「鍵」になる。

我が国は、遺伝子・蛋白・動物モデル、さらにはX線解析・蛋白構造などの基礎研究は充実しているが、そこから積極的に有用な化合物を探索し、構造最適化(薬物動態の改善と毒性の削除)を経て新規化合物とし、大型動物試験、さらには大学からの創薬の最終ゴールとなるヒト臨床試験でのPOCの取得に積極的に進めていくような意識が少ない。大手製薬企業のような大規模化合物ライブラリーがなくても、構造生物学や計算科学を駆使して、in silicoで探索することも可能である。化合物の構造最適化は、知財の高価値化や知財防衛上、大変に重要であるが、学際領域研究で対応可能であり、また幾つかの外注機関がある。また、安全性試験の施行は基本的に全て委託となる。最近では、マイクロドーズ試験(Ph-0)や早期探索的臨床試験など、医薬品の迅速な実用化に向けた基盤整備も進んで来た。それなりの実用化プランを研究者がイメージし、適切な人材を集めた場合、治療コンセプトの提唱から進み、それを証明するためのツールの取得、さらに構造最適化・安全性試験などを経て、臨床開発に向けて研究の段階を進めていくことは可能である。実際に、自分で取り組んでみて、少なくとも臨床試験Ph-IIa(POC試験)までは、大学からでも充分に対応可能と考えている。

 

これらノウハウは実際に取り組んだ一部の大学研究者の経験の蓄積(多くは失敗経験)にあるので、個々の研究者全てが実践することは難しいし、効率的でもない。ノウハウを持った専門家たちの支援と外注機関の紹介などを含めたプラットフォームを用意し、研究者らを支援していくことに意義がある。

 

今後は、マイクロドーズ試験(Ph-0)や早期探索的臨床試験など、早い段階から「ヒト」に投与し、サローゲートとなるバイオマーカーを指標に薬物動態、有効性、毒性などの評価が「ヒト」を対象に早期から行われる時代に移行していく。創薬は、これ迄の一部の大手製薬企業だけの独占事業ではなく、患者を擁し、且つ病態の理解や先端解析技術を有する「大学病院」などを主体に行われる様になるであろう。これによって、創薬開発の「Fast-track」が可能となる。日本は、既存の創薬体制では、患者数千人のメガ病院を有し、人件費等のインフラの廉価な一部のアジア諸国には負けることは間違いない(実際に、欧米製薬企業は日本を離れアジアに軸足を移した)。ただ、創薬プロセスのパラダイムが代わり、創薬がもっと合理的で科学的なプロセスによって進められる様になれば(以下の図参照)、高度なサイエンスを有する日本の役割もある。大学の寄与度はますます大きくなる。

 

基礎と臨床が一体となった統合化迅速臨床研究


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