研究紹介5

酸素センサー・プロリル水酸化酵素(PHD)を標的とした虚血障害治療薬の開発

 全ての生物は酸素を利用してエネルギーを作り出し、生命活動を維持しています。ひとたび酸素濃度が低下すると、その活動が著しく妨げられ、場合によっては死に至ります。私たちの身近では、高山病などがそれにあたるのですが、日常では標高の高い山に登ることは無いので、身近にはおこらない現象と思われるかもしれません。しかし、実は病気になったときに、体内局所で低酸素状態に陥ることが大きな病因の一つであることがわかってきました。局所の低酸素状態が関連する病気、すなわち、急性・慢性虚血による病気の代表例としては、虚血性心疾患、脳卒中、腎臓病などが挙げられます。そのため、これらの病態の進行において低酸素状態がもたらす分子メカニズムを理解すること、更に得られた知見をもとに、画期的な治療法(薬)につなげることは、医科学研究の大きな課題の一つであり、大学の使命と私たちは位置づけています。

  さて、その分子メカニズムで特に重要な役割を果たすのは、低酸素誘導因子Hypoxia inducible factor a (HIF-a)です。HIF-aは細胞や組織が低酸素状態にさらされた際に、血管新生、造血さらに嫌気性代謝経路を活性化することで低酸素状態から細胞を防御する機能をもつ転写因子です。通常状態では、プロリル水酸化酵素(PHD)の作用によって水酸化され、さらに水酸化HIF-aはvon Hippel-Lindauタンパク質によってユビキチン修飾を受けることで、プロテアソームで常に分解されています。つまり、通常状態ではHIFタンパク質レベルは低く抑えられていることになります。ひとたび、低酸素状態になると、PHDがHIF-aの水酸化に用いる酸素が減少し、結果として、HIF-aが安定化し、核に移行することで低酸素応答タンパク質の転写を促進します。再び、通常酸素状態に戻ると、HIF-aは水酸化をうけるようになり、不活化されます。この一連の反応過程が、低酸素状態を感知するセンサーとして機能しています。

 私たちは、この一連のPHD-HIF-aの分子メカニズムに着目し、虚血障害治療薬の開発を推進しています。なぜなら、現在、虚血による疾患の治療はその症状の軽減や病因の補正に重点が置かれており、総合的な病態改善のためには、低酸素状態に対する組織や細胞の抵抗力を高める事が必須であると考えているからです。現時点では、この作用を効率的に誘導可能とする薬は未だ開発には至っていません。そこで、低酸素状態に対する組織及び細胞の抵抗力を高めるために、低分子化合物によってPHDによるHIF-aの水酸化を阻害し、HIF-aの活性化を促進することが効率的ではないかと着想しました。

  私たちは、既に得られているPHD2のタンパク質結晶構造解析のデータを用い、活性部位に特異的に結合する低分子化合物をドッキングシュミレーションによって探索し、PHDを阻害する化合物™6008及び™6089を取得しております。これらのPHD阻害薬(Nature Review Drug Discovery 8, 139-152, 2009にNovel drugとして紹介)は、マウスのin vivo実験においても、血管新生を誘導することが可能で、虚血治療薬として期待されています。また、現在は、高効率のHREレポーター細胞を樹立し、大規模化合物ライブラリーから、新たなPharma coreをもつ化合物を探索中です。

  さらに、私たちの研究室では取得した化合物の阻害活性を、マウス遺伝学を活用して、Validationを進めています。PHDには1-3のアイソフォームが存在し、いずれもHIFを水酸化することが明らかとなっています。したがって、PHD阻害剤がどのアイソフォームを阻害するのか詳細に検討する必要があります。そこで、各PHDアイソフォームの条件付き欠損マウスをコネチカット大学Fong教授より譲り受け(Circulation, 116, 2007)、このマウス個体、またこれらのマウスから樹立した細胞を用い、候補化合物を選抜しています。


 


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